1.なぜ除菌後の抗体価の長期的推移が重要なのか
ピロリ菌診療や胃癌検診において、未感染と既感染(とくに除菌歴のない偶然除菌者)の鑑別はとても重要です。既感染の胃癌リスクは高く、未感染の胃癌リスクは低いのですが、両者を鑑別するためには内視鏡検査を行わなければなりません。すべての方に内視鏡検査を行えればいいのですが、現実的にはそれは困難です。そのため、血液検査や呼気検査などで間接的にピロリ菌の感染状態を調べて胃癌リスクが高い方(現感染・既感染)を優先的に内視鏡検査を実施することが合理的です。
既感染者のピロリ菌抗体価は数年後には低下して陰性化するので、抗体価による未感染と既感染の鑑別は難しいと考えられていました。しかし、当クリニックの高感度測定法による前向き研究で未感染と既感染が区別できる可能性が高いことが分かってきました。そこで、除菌治療後の抗体価が長期的にどのように推移するかが解明できれば、未感染と既感染の抗体価による鑑別が可能であることの証明になります。そこで、2017年当クリニックで除菌治療を受けた方の長期的な抗体価の低下現象を調べてみました。
2.除菌後の抗体価は徐々に低下
図1は対象の除菌後の抗体価と除菌後期間との関係です。除菌後期間が長くなるにつれて抗体価は徐々に低下し、除菌後10年を越えるとほとんどの抗体価は3.0U/mL未満(陰性低値と言います)まで低下しました。
2.除菌後6か月で約1/2に急速に低下
除菌後の抗体価の低下速度は除菌後早期に速く、時間の経過とともに徐々に遅くなります。とくに除菌後6か月間の低下速度は速く、前値の約1/2まで低下します。この6か月間の急速な低下は、“除菌治療の成功の証明”として診療で利用されています。図2は除菌後抗体価の除菌前値に対する比率と除菌後期間との関係です。
3.除菌後4年間で徐々に低下速度はゆるやかに
除菌後期間が4年を越えると抗体価の低下速度はゆるやかになり、その後、長期的には一定の値に抗体価は下げ止まることがわかりました。
4.除菌後の抗体価の多くが未感染と区別可能な範囲内に下げ止まる
除菌後4年を越える長期的な抗体価は全例10U/mL未満となり、約半数の抗体価が3.0U/mL未満となりました。このことから、除菌後既感染は陰性高値(抗体価9.9~3.0U/mL)にとどまるのは既感染の約半数のみで、抗体価3.0U/mL未満を未感染とすることは既感染の約半数を誤診断する可能性があることがわかりました。